ミカタのアクション

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不登校の子ども・ひきこもりの若者の居場所

多様な学びの選択肢を

一般社団法人フリースペースつなぎ

 フリースペースつなぎは、気仙沼中央ICから車で4分の場所で、月曜日から金曜日まで開いている、不登校の子ども・ひきこもりの若者の居場所です。

 小中学生の子どもたちはつなぎに通うことが出席として認められていて、学校とフリースペースのどちらに行くか、その日の気持ちに応じて自分で選んでいます。教員免許のあるスタッフのサポートを受け、高校卒業資格の取得を目指している子もいます。また、裏の畑で無農薬野菜をつくったり、週に一回体育館などを借りたりして、身体を動かす時間もあります。

子どもたちをつなぎたい

 つなぎをつくった中村みちよさんは、小学校や特別支援学校の先生でした。中高の教員免許もあり、NPO法人登校拒否・不登校を考える全国ネットワークの共同代表や、多様な学びを共につくる・みやぎネットワークの共同代表も務めています。
 教員をしていた中村さんですが、子どもの不登校の問題で悩んでいる親御さんの声を聞いたのは、東日本大震災のあと教職を辞してからのことでした。教師をしていた自分からは見えない部分だったことから、「公的機関と不登校の状態にある子どもや親御さんたちをつなぐ役目を果たしたい。同じ状況にある子どもたちをつなぎ合う役割をしたい。」そう中村さんは考えました。東日本大震災でたくさんの支援を受け、今度は自分ができることはなんだろうと考えていたこともありました。

子どもミーティング

 つなぎでは、週一回の「子どもミーティング」で、話し合ってやりたいことを決めていきます。取材時も広間のホワイトボードいっぱいに、やりたいこと、お昼のメニュー、掃除当番、今日の天文台行きの計画などが書かれていました。そうして決めた昼食やおやつも、みんなで分担して作ります。
 不登校という状況に置かれ、子どもたちは自信をなくしていることも多いです。そんな子どもたちが、先輩の子どもたちの様子を見て、少しずつやりたいことが口にできるようになり、それが実現していくことで、元気になっていくのを中村さんは見てきました。
 はじめはうまく意志が伝えられない子どもたちも適切に後押しができるよう、毎日帰りにスタッフミーティングをして、それぞれが子どもたちの様子を観察していて気になっていることをシェアしています。子どもたち自身の困り感へまなざしを向けるよう、意識しているそうです。

ここはかけがえのない場所

 つなぎをはじめてもうすぐ10年、フリースペースを週5回にしてから4年、不登校の数は増え続け、面談や体験の申し込みも多くなってきています。現在日常的に通ってきているのは小学生から20代までの10人~13人。仙台や登米など市外から泊りがけで来る子もいるそうです。BRTなどで来る遠方のお子さんには、最寄りの松岩駅までスタッフが迎えに行くこともできます。
 関わる人たちから「ここがかけがえのない場所」と聞き、「だから続けなくちゃと思う」と中村さんは言います。お母さんたちにとっても、自分と同じように悩んできた人がいると知る、大切な場所です。つなぎではそれぞれ月に一回、親の会、つなぎに通う子の親が集まる親カフェ、仙台など市外にも会員がいるので「夜な夜なオンライン」も開催しています。
 また、気仙沼市教育サポートセンターと合同でも親の会を行っていて、どこにもつながっていない親の方にもつながる機会がもてるよう、公民連携で取り組んでいます。

「不登校」という言葉への違和感

 実はずっと中村さんが違和感を感じ続けていたことがあります。それはつなぎの活動を説明する時に使わなければならない「不登校」という言葉。多様な子どもたちがいて、本来それぞれに合った学びのスタイルがあるはず。「不登校」というのは、学びの選択の自由が保障されていない日本特有の問題だと言います。
 海外では、フリースクールやホームスクーリングにも公的支援があるのが一般的。たとえばマレーシアでは、近くの公立の小学校が合わなくて遠くの学校に通う場合、その分の交通費が助成されるそうです。

 そんな世界の教育環境を肌で感じるべく、中村さんは、IDEC (International Democratic Education Conference)の世界大会にも足を運びました。会場となった100年の歴史をもつイギリスのサマーヒルスクールでは、子どもたちが考えて自分たちで決める、ということが徹底されていたと言います。また、環境が子どもたちの興味を引き出すように工夫が凝らされていたそうです。

 今年(2022年)の夏には気仙沼が、NPO法人登校拒否・不登校を考える全国ネットワークによる「登校拒否・不登校を考える夏の全国大会」のサテライト会場となりました。市長や教育長からの言葉もあり、多様な学び方が必要というメッセージを、震災でたくさんの支援をいただいた気仙沼から発信できたことに、中村さんは意味を感じています。

自分で考えて決められる社会

 つなぎは、ふだんの生活があって教科の学びがある、異年齢の子どもたちが一緒に過ごす、社会に近い場です。ただ、つなぎでは自分たちで話し合って決めることを大切にしていますが、つなぎを卒業して社会に出て行くと、誰かが決めたことに従わなければいけない場面もまだあります。

 そうじゃない労働環境や社会にしていきたい、というのが中村さんの願いです。それを誰か一人の考えで変えていくというのは難しいし、変わったとしてもきっとその人がいなくなったら元に戻ってしまう。だから、時間はかかるかもしれないけど、ひとりひとり問題や生きづらさを抱えた人の意見に向き合って、つなぎの活動を続けていくことが、そこに一歩ずつ近づいていく。

 この10年間、地域につなぎの活動を理解してくれる方が増えてきているという実感が、中村さんにそう思わせてくれています。

一般社団法人フリースペースつなぎ

不登校の子ども・ひきこもりの若者の居場所

住所:〒988-0183 宮城県気仙沼市赤岩泥の木19-1
営業日:月〜金曜日 10時〜16時
https://space-tsunagi.com/

https://www.facebook.com/spacetsunagi/

※月謝制(対象は小学生〜高校生、18歳以上の若者/体験入会3回まで無料)

取材日
2022/09/30