こどもとママのいつもの表情を大切に撮っておきたい
こども写真家 志田ももこ
写真によってママとこどもと家族に笑顔になってほしい。こども写真家である志田さんがカメラを持つ理由はそこからブレることがありません。
ママに笑ってほしかった
志田さんは看護師。大学を卒業してから、こども医療センターで働いていました。薬の量を1ミリ間違えたら、目の前の赤ちゃんの命に関わる―そんな環境で、毎日ママたちの姿を見ていました。こどもの病状が悪くなり、きれいにお化粧していたママにそんな余裕がなくなっていったり…。志田さんは「ママを笑顔にしたかった」と言います。
ある日、病室に来てはこどもの写真ばかり撮っていたママに、ふたりの写真を撮ってあげました。そうしたら「一緒に写っている写真がほとんどないんです」と想像以上に喜んでもらえた。それがずっと心に残っていました。
その後、「組織の中でできることって限られている」と感じ、10代から看護師になるために一直線に進んできたため「ほかの世界も見てみたかった」こともあり、病院を退職して、ゲストハウスに滞在しながら、全国を回る一人旅に出ました。そこで縁とタイミングが合って、絵本カフェ架け橋の立ち上げメンバーになったりしました。
そこでまた、ママたちに会うことになります。病院に来ていたママたちとは状況は違うけれど、でも子育てのしんどさはある、ということを知りました。そして、少しの間でも見てあげたり遊んであげたり、できることがあるとわかった、と言います。
春になると桜の下で、絵本カフェで働いているママとこどもの写真を撮るようになり、その写真をあげると、やっぱりすごく喜んでくれました。
ここが、カメラはママの笑顔のための手段という「こども写真家」のスタート地点でした。
気仙沼の家族と長い時間を一緒に
志田さん自身は、自分の写真やスタイルへのこだわりがありません。「“このテイストが一番ママから喜んでもらえる”というものを追っている」と言います。
特別な機会だけではなく、むしろ日常を残してほしい。子どもと触れ合っている時の、自分の顔を見てほしい。
喧嘩しちゃったときに「ウチの子かわいいな」「わたしこんなにやわらかい顔してたんだな」って思い返すきっかけにしてもらえたら最高。
こどもにも、撮影のために指示を出すことはしたくない。指示通りにはできないものだし、そのためにママに余計な気を遣わせたくない。こどももママもいつも通りの素敵な瞬間を残したい。
だから、“公園に行ったら、ももちゃんがいた”という感覚で写真を撮りたいと思っています。公園を走ってる姿は、今は当たり前のようで、10年後になったらすごく貴重。
オムツ姿も、部屋中に散らかったおもちゃも、ぐちゃぐちゃになった食卓さえ、未来のわたしにはきっと、泣きたくなるほどなつかしい。
カフェの2階のスペースで開かれた個展では、そんな瞬間が光の粒子がピン留めされたように、お披露目されていました。
この街のいくつもの家族の日常。近所のおばあちゃんたちも見に来て「ほらほら見てみて、この顔!」と写真を指差し合っていました。自分じゃないのに自分のことのような“あたりまえの風景”と、自分なのに自分じゃないような“貴重さ”。それが志田さんの写真の上で交差しています。
これからもこの街で、気仙沼の全部の家族と、長い時間を共にしていきたい―レンズの向こうで、志田さんは一瞬ごとのかけがえのなさを捉え続けています。
- 取材日
- 2022/12/12