新しい価値や未来の可能性を生むジャムセッション
NPO法人ピースジャム
NPO法人ピースジャムは、未就園児を子育て中のお母さんたちが、子どもを連れて出勤できる職場をつくっています。
はじまりは震災後の赤ちゃん支援から
ピースジャムは、気仙沼駅から車で10分ほどでありながら、岩手県との県境に近い自然豊かな環境の中にあります。
代表の佐藤さんは、東日本大震災の時に在宅避難でミルクが足りずにおなかをすかせた赤ちゃんたちを目にし、物資支援活動を開始。その後、任意団体「災害時乳児救済ボランティア ピースジャム」を結成して、気仙沼を中心に南三陸町から大船渡市まで、物資支援をしながら、ニーズ調査をしてきました。
4,500件ものヒアリングの結果、「働きたい」という子育て中のお母さんの声に応えて、その雇用の受け皿として、ジャムの製造・販売を開始。「子どもを預けられる場所がなく働けない」「働きたいけど子どもとの時間も大切にしたい」という悩みも解決するため、子どもを連れて来られるよう、お母さんたちが働いている傍らに、子どもたちが遊ぶスペースも設けています。
その後、縫製部門を追加し、2014年には現在の場所に工房を完成させました。一年後には、工房に隣接して広場とツリーハウスが整備され、一般にも開放されます。2022年9月にはこの工房と広場を拠点に、自然環境を活かした保育をする「モリノネ」が活動をスタートさせる予定です。
これらの取り組みがグッドプラクティスとして広まって、政府や企業が工房を視察に訪れたり、代表が海外の研究・教育機関に講演に呼ばれたりしています。
現在中心に作っているのは「ベビーモスリン」。イギリスなどではコットン100%の平織りの布「モスリンスクエア」が、出産・育児の必須品として古くから子育てに使われていて、震災後にロンドン在住の日本人ママたちから支援物資として届いたのだそうです。このモスリンがとっても役に立ったという気仙沼のお母さんたちの声から、国内で唯一イギリス伝統の立体格子織りを再現し、裁断からパッケージまで全て手作業でつくる「ベビーモスリン」を、ピースジャムでつくりはじめました。白無地のほか、伝統的な草木染めを施したカラーもあります。
新しい価値や未来の可能性を生むジャムセッション
小さな子どもを育てるお母さんたちはまず物理的に忙しい。だからピースジャムでは、24時間いつでも、自分の生活に合わせていつ出勤してもいいということになっています。
仕事によって、収入を得ることはもちろん、一緒に子育てするコミュニティをもつこと、自分を伸ばすことや選択肢を増やすことを叶えてもらえたらと佐藤さんは言います。
生みたいけど社会的制約があって生めないというような、子どもをもつことが人生のリスクと考えざるを得ないような状況を解消したい、と強く感じています。
佐藤さんはミュージシャンでもあり、震災前はブルースバーを経営していました。だから、ピースジャムの「ジャム」は、ジャムセッションの「ジャム」。誰かと誰かが一緒になることによって、点と点が面になる。面は曲になり、場をつくる。そこには1+1=2以上のものが生まれる。震災後の物資支援にいつの間にか集まってくれた仲間たちとの間にも、ピースジャムで働くお母さんたちとの間にも、佐藤さんはジャムセッションを感じています。音楽は共通言語。常に目の前にいる人と、最適な“生きてく感覚”を探っていきたい。そこからこそ新しい価値や未来の可能性が生まれていくと、これまでの11年の歩みとともに感じています。
NPO法人ピースジャム
子連れで仕事ができる環境
住所:〒988-0843宮城県気仙沼市落合254-1
Tel:0226-29-6583
営業時間:広場はいつでも開放
定休日:広場はいつでも開放
設備:授乳室(工房営業時使用可)
Facebook:https://ja-jp.facebook.com/peacejam.kesennuma/
- 取材日
- 2022/07/06